

呉 佩珊(ゴ・ハイサン)
台湾出身。環球科技大学で経済学と日本語を専攻。卒業後は日本の旅館やホテルで10年以上の接客経験を積む。現在はうぶやで、お客様案内や配膳に加え、新入社員の教育や、外国人のお客様に向けた英語メニューの作成なども担当。筋トレと山登りが趣味で、好奇心旺盛かつ行動力のある性格。社内SNSでのTシャツ提案をきっかけに、プロジェクトを牽引した。

高橋 伸明
入社以来、フロント、ラウンジ、経理、客室係など幅広い業務を経験してきたうぶやの“縁の下の力持ち”。現在はフロント主任としてチームを支えつつ、社内のさまざまなプロジェクトに関わるマルチプレイヤー。穏やかな語り口と柔軟な調整力で、部署を超えた橋渡し役を務める。仕事のモットーは「穴が開いてても器は大きく!」
始まりは、静かな投稿から——「やってみたい」の声が広がって
このプロジェクトは、どんなきっかけから始まったのでしょうか?
呉さん:ほんの小さな思いつきを社内SNSに書き込みました。私は前の職場で、山登り仲間とTシャツを作った経験があったんです。それがすごく楽しかったので、社内SNSに「Tシャツを作ってみませんか?」と投稿しました。
高橋さん:たったひとことの投稿だけど、彼女がフランクに投げかけてくれた動き自体が、とてもいいなと思ったんです。また、ちょうど企業理念をもっと浸透させたいという話が社内で出ていた時期でもあり、「これをプロジェクトにしたらいいのでは?」と閃きました。部署の垣根を越えて関わり合うプロジェクトを模索している中で、「Tシャツをつくる」というアクションは、うぶやとしてのチーム感を目に見えるかたちで表現するのにぴったりだと感じました。
呉さん:まさかこんなふうに広がるとは思ってなかったです。アイデアを書き込んだ私も驚きました。でも高橋さんが「やってみよう」とすぐに動いてくれたことで、自然と流れができて、プロジェクトが動き出しました。
ことばも国籍も違うけれど、気持ちは一つだった
メンバーはどのように集まりましたか?また、チームの雰囲気は?
呉さん:集まったのは、日本・台湾・中国出身の5人。年齢も20代から40代までと幅広くて、まさに多国籍チームでした。最初は正直、緊張しました。でもミーティングを重ねるうちに、お互いの考え方や性格が自然と見えてきて、すごくよいバランスが生まれたんです。会議では、国ごとの特性も自然ににじみ出ていて、それが面白かったですね。中国出身のメンバーは、思うことを率直にズバッと意見してくれるタイプ。日本人のメンバーは、全体のバランスを見ながら「こうするといろんな人に受け入れられるかも?」と調整役にまわることが多かったです。そして私は台湾人らしく、皆にどんどん話しかけて「じゃあ、これとこれを合わせたらどうかな?」と皆の意見の橋渡しをしていくようなスタイルでした。
高橋さん:僕も当初は裏方のつもりで関わっていましたが、メンバーの前向きな姿勢や発想力に刺激をもらいました。誰かの「こんなことできたらいいな」に、みんなで「やってみよう」と応える。そうした関係性が、プロジェクトを最後まで気持ちよく進められた理由だったと思います。
呉さん:文化や言語の違いはありましたが、それが壁になることはなかったです。むしろ違うキャラクター同士だからこそ生まれたアイデアが、たくさんありました。
「着ること」で理念を表現するTシャツ
Tシャツのデザインはどのように決めたのですか?
呉さん:全社員にアンケートをとって「何色が着やすいか」「どんなデザインなら着たいと思えるか」を細かく聞きました。ネイビーを選んだのも、幅広い年代のスタッフが着られる色にしたかったからです。刺繍を選んだのは、うぶやの制服のエプロンにも刺繍があるので、統一感が出るようにしたかったからです。
高橋さん:最初は「社内で行う運動会に間に合わせよう」と考えていたんですが、途中で「妥協して間に合わせるよりも、納得のいくものをつくろう」と全員で話し合って決めました。それで完成は少し遅れましたが、妥協せずにつくってよかったと思っています。
呉さん:Tシャツに富士山やくす玉モチーフを入れて“うぶやらしさ”を表現しました。これらは単なる飾りではなく、「人生を祝い、人生を楽しむ」という、うぶやの理念を象徴するモチーフなんです。くす玉はいつも私たち客室係がお祝いでお出ししているもの。そしてうぶやのシンボルともいえる富士山。こういったモチーフをデザインしたTシャツをスタッフが着て、理念を表現することができたらいいなと思いました。
さらに、デザインの中にはちょっとした仕掛けもあって、たとえば、女性スタッフがよくやるようにTシャツの袖をくるっとまくると、そこに隠れ富士山があったり、2人で並ぶと富士山の絵がひとつにつながったり。そういう、うぶやらしいユーモアとあたたかさを込めたのです。その甲斐あって完成したTシャツを見た瞬間、「あ、これはみんなのTシャツだな」と実感できました!
「話すきっかけ」って、案外こういうものかもしれない
完成したTシャツは、実際にどのように活用されていますか?
高橋さん:Tシャツはお掃除のスタッフの方が日々の業務で着用していますし、社内イベントや部活動の際にも活用しています。
呉さん:最初はすごく不安だったんです。「本当にみんな着てくれるのかな、ダサいって思われたらどうしようって(笑)」。でも出来上がって皆に配った翌週、廊下ですれ違ったお掃除のスタッフさんが「このTシャツすごく着心地いいね」って声をかけてくれて。それがとにかくうれしかったです。さらに、普段はあまり話さない板前さんが「これ、うちらも欲しいんだけど」と冗談交じりに言ってくれたりもしました。こうして完成後に反応をもらえたことで、みんなが関心を持ってくれていたことを感じて、「作ってよかった」と心から思えました。
高橋さん:Tシャツが“社内の共通言語”になってくれたと思います。理念をただ伝えるだけじゃなく、着ることで体感できるようになった。理念って、見えないから実感しづらいものだけど、それを着て語り合えるようになったことは大きかったです。
呉さん:最近は、新入社員との関係づくりにも役立っていて、「このTシャツってなんですか?」と聞かれるたびに、自然と理念の話ができる。うぶやがどんな職場か、言葉にしなくてもTシャツで伝わるのがすごくいいなって思います。それに、このTシャツを見たお客様から「これ、売ってないんですか?」と聞かれたこともあって、とても嬉しかったです。うぶやのスタッフだけでなく、お客様にも「人生を祝い、人生を楽しむ」という理念が伝わっているんだなと感じました。
一歩を踏み出せば、世界がちょっと変わる
プロジェクトを終えて、今どんな思いがありますか?
高橋さん:僕はこのプロジェクト、成功も失敗も全て受け入れるつもりで始めました。もしもデザインや評判がイマイチだったとしても、それはそれで貴重な経験になる。だからこそ、気負わず、楽しんで取り組めた気がします。結果としてスタッフの反応も良く、思っていた以上の成果になりました。形として残せたことで、集まってくれたメンバーにも目に見える達成感を共有してもらえたのが印象的でした。それが次につながる手応えにもなっています。
呉さん:また機会があれば、次もやってみたいです! うぶやの理念って、言葉で書いてあるものだけじゃなくて、こうして“誰かの思いが形になっていくこと”なんだなって、今回のTシャツで実感できたことが自信になりました。小さな投稿から始まったこのプロジェクトで、たくさんの人の心を動かせたことが何よりうれしいです。